自ら命を絶ってまで真理を追求した哲学者〜無知の知「ソクラテス」
相対主義を支持することは、絶対的な真理を求める気持ちを失ってしまう
プロタゴラスに代表される相対主義は、「人や国家はそれぞれであり、正しいというものは人や場所や時代によって変わる。絶対的な真理というものはない」というものである。
現代人の価値観は多様化しているため、「みんなそれぞれだ」という相対主義に同意する人は多いだろう。広い心の持ち主のようにとらえられ好感ももたれるだろう。
しかし相対主義を支持することは、絶対的な真理を求める気持ちを失ってしまうことになる。絶対的な真理がないと信じればそれまでだ。
「なぜ生きるのか?」「なぜ働くのか?」「なにが幸せなのか?」を探求することは大事
僕たちは何を信じて生きるのか、それは重要なのではないか?絶対的なものなんてない、と信じてしまったら、一生懸命考えることや生きることを放棄してしまうのではないか?
私たちが住んでいる日本は民主主義だ。多数決でいろんな物事が決まる。人それぞれでいいよ、という投げやりな気持ちでは、いい国にならない。
「なぜ生きるのか?」「なぜ働くのか?」「なにが幸せなのか?」を探求することは大事である。
「絶対的な真理」を追求し、良い人生は何かを考え続けた最初の哲学者ソクラテス
紀元前400年ごろの古代ギリシャでは、プロタゴラスなどソフィストから学んだ政治家が民衆に支持されるために、言葉を上手に操ることを覚えていた。
しかもそのソフィストによって民主主義国家が荒らされてしまい、みんなが守るべきルールや秩序が決められないでいた。
その相対主義を駆使した弁論家になった者たちの前に表れたのが、ソクラテス(紀元前469年〜紀元前399年)だ。ギリシャのアテナイの石工と産婆の間で生まれる。
ソクラテスは、相対主義ではなく「絶対的な真理」を追求していた。良い人生を可能にするものはなにかを考え続けた最初の哲学者である。
自分が何も知らないということを知ってるという人が偉い「無知の知」
ソクラテスは議論の最中に政治家たちに対して、「◯◯とは何ですか?」と質問し続けた。答えに詰まる政治家に対して「何も知らないで語ってたのですか?」と反論をするという問答法を用いたのだ。ソクラテスが問答法を用いたのは真理を追求するためであって、問答法によって人々が頂いている観念の内実をはっきりさせるためだった。
なお、ソクラテスはこの問答法を母親の職業にちなんで「助産術」と名付けている。真理を生むお手伝いという意味である。
ソクラテスは頭の良さをひけらかすのではなく、自分は何も知らないという無知をさらけさして議論したのである。これが、「自分が何も知らないということを知ってるという人が偉い」という有名な「無知の知」である。
「無知の知」に至ったのは、「良く生きるには宇宙の秩序に従って生きることであり、それには宇宙の善の知識が必要だ」と考えたからだ。そのためには、己の無知に気付くことが必要だと考え「無知の知」に繋がっていった。
ソフィストに己の無知を自覚させることができれば、積極的に知識を学び賢くなるわけだ。
自分や世間についての知識を獲得するためには、まずは自分自身の無知を知り先入見を一切退けておくことで、初めて真理を見つけられる可能性がある。だから、自分が何も知らないところから始めることをソクラテスは唱えたのだ。
無知であることを前提に、論証を理論的に吟味するスタイルは西洋哲学の土台になっていった。
自分が無知であるという事実のほかには私は何も知らない〜ソクラテス
自ら毒杯を飲み死ぬことで、絶対的な真理を貫いたソクラテス
ソクラテスの「無知の知」は若者の心に響き、弟子入りを志願した者がたくさん出てきた。ソクラテスは良く生きること徹底し、弟子を取らず、お金も受け取らなかった。それをやるとソフィストと同類になるからだ。そのせいで極貧になるような不器用なソクラテスであるが、そういう彼だからこそ哲学の師匠として有名になっていくのである。
自分が関心がある問題を問うことのみを、ソクラテスは貫き通した。しかし恥をかかされて面白くない政治家たちから裁判にかけられ死刑になる。そして自ら毒杯を飲み死に至る。
ソクラテスは死刑までの期間、脱獄できる機会を提供された。しかしソクラテスは逃げなかった。逃げることは自分の主張から逃げることになり、絶対的な真理はないということに繋がるからだ。
自ら毒杯を飲み死ぬことで、絶対的な真理を貫いたソクラテスであった。
ソクラテスはなにひとつとして書き残したり、学派も作らなかった。そのソクラテスの意志を受け継いだ若者に、プラトンがいる。プラトンはイデア論を生み出し、今の大学のルーツとなる教育期間のアカデメイアを設立し、真理を探求していく学生を育てることに生きた。
吟味されることのない人生など生きるに値しない〜ソクラテス
コメントを書く